変形性膝関節症の「炎症期」をどう乗り越えるか:痛みを抑え、膝を守るための専門ガイド

ひざ痛

変形性膝関節症における「炎症期」とは?

変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis: KOA)は、単なる加齢による軟骨の摩耗だけではありません。

関節内の環境と生物学的な反応が複雑に絡み合った「炎症性疾患」としての側面を持っています。

特に患者様が強い苦痛を感じ、日常生活に支障をきたすのが「炎症期」や「急性増悪期」と呼ばれる時期です

この時期は、関節を包む滑膜が炎症を起こして腫れ、関節液が過剰に溜まる(いわゆる「水が溜まった」状態)ことで、強い痛みや重だるさが生じます

炎症期に適切なケアを行えるかどうかは、痛みの緩和だけでなく、将来的に軟骨がさらに壊れるのを防ぎ、手術を回避できるかどうかの重要な分かれ道となります

炎症期(急性増悪期)を見分ける4つのサイン

自分の膝がいま「炎症期」にあるかどうかは、以下の「炎症の4徴候」をチェックすることで判断できます

サイン 具体的な症状 背景にある状態
発赤(ほっせき)

膝の表面が赤みを帯びている

炎症により血流量が増加している状態
腫脹(しゅちょう)

膝が腫れて、お皿の形がはっきりしない

関節液が過剰に溜まっている(水腫)

熱感(ねつかん)

触ると反対側の膝より熱い

局所で炎症反応が活発になっている
疼痛(とうつう)

安静にしていても痛む、夜間に痛む

疼痛物質が放出され、神経を刺激している

これらの症状がある間は、無理に動かすと炎症が悪化し、軟骨の摩耗を早めてしまいます 7

急な痛みの初期対応:RICE処置

膝が急に痛み出し、熱や腫れがある場合は、スポーツ現場でも行われる「RICE(ライス)処置」が基本となります

  1. Rest(安静): 無理に歩き回らず、膝を休めます。必要に応じてサポーターなどで固定し、膝への負担を最小限にします

  2. Icing(冷却): 氷嚢などをタオルで包み、1回15〜20分ほど冷やします 。感覚がなくなったら一度外し、再び痛みが出てきたら冷やす、というサイクルを繰り返してください

  3. Compression(圧迫): 弾性包帯などで軽く圧迫し、腫れが広がるのを抑えます 。ただし、しびれが出るほど強く締めすぎないよう注意が必要です

  4. Elevation(挙上): 横になるときは、膝の下にクッションを置き、膝を心臓より高い位置に保つことで腫れを和らげます

薬物療法と再生医療

最新のガイドラインや臨床現場では、炎症を抑えるために様々なアプローチが取られています

一般的な治療法

  • 外用薬・内服薬: 消炎鎮痛剤の貼り薬(湿布)や塗り薬が第一選択となります。痛みが強い場合は胃腸への負担に配慮しながら飲み薬が処方されることもあります

  • ヒアルロン酸注射: 関節内の滑りを良くし、炎症を和らげるために広く行われています 。注射をした当日は、血行が良くなりすぎて腫れるのを防ぐため、入浴はシャワー程度に留めましょう

新しい選択肢:再生医療

従来の治療で効果が不十分な場合、自分の血液を利用した再生医療も注目されています

  • PRP(多血小板血漿)療法: 血液中の修復成分を濃縮して膝に注入し、炎症を抑えて組織の修復を促します

  • APS療法: PRPをさらに濃縮したもので、抗炎症性サイトカイン($IL-1ra$など)の働きにより、長期間の除痛効果が期待されています。

炎症期の過ごし方:やってはいけない「NG行動」

炎症期に「良かれと思って」やってしまいがちな行動が、実は症状を悪化させることがあります

  • 痛みを我慢して歩く: 「歩かないと足が弱る」と無理をするのは逆効果です。軟骨をさらに傷つけてしまいます

  • 激しい運動や深い屈伸: ランニングやジャンプ、深いスクワットなどは膝に過大な負荷がかかるため、この時期は控えましょう

  • 正座や和式トイレ: 膝を深く曲げる動作は、関節内の圧力を急激に高め、炎症を悪化させます

  • 無理なストレッチやマッサージ: 痛みがある部位を強く押したり、無理に伸ばしたりすると炎症が強まる恐れがあります

日常生活での工夫:階段と歩き方のコツ

膝への負担を減らすために、ちょっとした動作のコツを覚えましょう

階段の昇降ルール

「上りは良い足(痛くない足)から、下りは悪い足(痛い足)から」というルールを徹底してください

  • 上るとき: ①良い足 → ②悪い足 の順。良い足の筋力で体を引き上げます

  • 下りるとき: ①悪い足 → ②良い足 の順。良い足が上の段で体を支えることで、悪い足への衝撃を減らします

杖とサポーターの活用

  • 杖の使い方: 杖は必ず「痛くない側」の手で持ちます。これにより重心が分散され、膝への負荷が軽減されます

  • サポーターの選び方: 日本人に多い「内側型(O脚傾向)」の方は、膝の内側を支える支柱付きのタイプが効果的です 。サイズが小さすぎると血行不良の原因になるため、適切なサイズを選びましょう

お風呂のタイミング:冷やすか温めるか

判断の基準は「熱や腫れがあるかどうか」です

  • 熱・腫れがある時: 入浴は避け、シャワー程度にしてください。温めると炎症が強まり、痛みがひどくなることがあります

  • 熱・腫れが引いた後(回復期): 40℃程度のぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、血行が良くなり、筋肉のこわばりが解消されます

回復に向けたリハビリテーション

炎症が落ち着いてきたら、少しずつ「膝を守るための筋力トレーニング」を始めます 。

特にもも前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることは、膝の安定性を高める上で非常に重要です 。

まずは膝を伸ばしたまま太ももに力を入れる「パテラセッティング」など、関節を動かさない運動から開始しましょう 。

まとめ:早めの受診が大切です

変形性膝関節症の炎症期は、適切な安静と処置を行うことで、通常1〜3ヶ月程度で落ち着いていきます

しかし、自己判断で無理を続けると、取り返しのつかないダメージを膝に与えてしまうかもしれません。

もし、以下のような症状(レッドフラッグ)がある場合は、すぐに専門医を受診してください。

  • 38度以上の発熱を伴う激痛(感染症の恐れ)

  • 膝が急に動かなくなる(ロッキング現象)

  • 安静にしていても痛みが全く引かない

「無理をしない勇気」を持ち、専門家のアドバイスを受けながら、一歩ずつ回復を目指していきましょう。

関連ページ:変形性膝関節症の初期について

      変形性膝関節症の中期について

関連ページ:筋トレは逆効果?変形性膝関節症の生活習慣

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