1. 動き始めの違和感は「初期」の黄色信号
変形性膝関節症の初期症状で最も特徴的なのは、「初動時痛(しょどうじつう)」と呼ばれるものです 。
これは、動作の開始時にだけ痛みや違和感が生じる現象を指します。
具体的な初動時痛の例
-
朝、布団から起き上がって最初の一歩を踏み出したとき
-
椅子から立ち上がろうとした瞬間
-
バスや電車で座っていて、降車時に立ち上がって歩き始めたとき
初期段階の大きな特徴は、こうした痛みが「しばらく歩いていると自然に消えてしまう」という点です 。
多くの人は「動けば治るから大丈夫」と考えがちですが、これこそが関節軟骨が摩耗し始めている初期の重要なサインなのです。
2. あなたの膝は大丈夫?初期のセルフチェックリスト
自分では気づきにくい膝の変化を、以下のチェックリストで確認してみましょう。
これらが複数当てはまる場合は、専門医への相談を検討すべきタイミングです。
| チェック項目 | 内容の目安 | 意味すること |
| 朝の膝のこわばり | 朝起きたとき、膝が重く動かしにくい。5分以上続く場合は注意 |
関節内の炎症や柔軟性の低下
|
| 正座がしづらい | かかとにお尻がつかなくなった、膝裏がつかえる感じがする |
関節包の柔軟性低下や軽度の腫れ
|
| 階段の「下り」の不安 |
下りる際に膝がガクッとする、あるいは抜ける感じがする
|
膝周り(大腿四頭筋)の筋力低下
|
| 膝の音や引っかかり | 曲げ伸ばしで「ポキポキ」「ギシギシ」と音がする | 軟骨の表面が毛羽立ち始めているサイン |
| 片足立ちの不安定感 |
左右どちらかの足で、壁を使わず30秒立っていられない
|
膝を支えるバランス能力の低下
|
また、外見の変化も重要です。
鏡で脚を見たときに、以前よりも膝の間の隙間が広がり、O脚(内反変形)が進んでいるように見える場合は、内側の軟骨がすり減り始めている可能性があります。
3. 医学的な「初期」:KL分類グレード1〜2の状態
医師が変形性膝関節症と診断する際、レントゲン画像に基づいた「Kellgren-Lawrence(KL)分類」という基準を用います 。
初期はこの分類のグレード1から2に相当します。
-
グレード1(疑い): 膝関節の隙間はまだ保たれていますが、骨の端に「骨棘(こっきょく)」と呼ばれる小さなトゲのような突起ができ始めている可能性がある状態です 。自覚症状はほとんどないか、軽い違和感程度です。
-
グレード2(初期): 骨棘がはっきりと確認でき、関節の隙間がわずかに狭くなっている(25%以下)状態です 。この段階から、本格的に動き始めの痛みを感じるようになります。
医学的には「グレード2以上」で正式に変形性膝関節症と診断されます 。
この段階であれば、適切な自己管理によって症状を大幅に改善させたり、進行を遅らせたりすることが十分に可能です 。
4. なぜ「痛みが消える」のに放置してはいけないのか?
初期に「しばらく動くと痛みが消える」のには理由があります。
動くことで関節内の循環が良くなり、滑液(潤滑油の役割を果たす液)が関節全体に行き渡るため、一時的にスムーズに動けるようになるのです 。
しかし、軟骨には血管がないため、一度すり減り始めると自然に元の状態へ戻ることはありません 。
痛みが消えたからといって根本的な原因(筋力不足や体重過多など)を放置していると、知らない間に摩耗が進み、次に痛みが出たときには「中期(進行期)」に至っていることも少なくありません 。
「痛みの持続時間が長くなってきた」「痛みが引くまでの時間が以前よりかかるようになった」という変化は、病気が進行している確実なサインです 。
5. 初期に行うべき「3つの守り方」:体重・筋肉・動作
初期段階での介入目標は、膝への負担を物理的に減らし、関節を支える力を高めることにあります 。
① 体重管理(減量)
膝には歩行時に体重の約2〜3倍、階段ではさらに大きな負荷がかかります 。
研究では、BMIが5増加するとリスクが1.2倍以上になると報告されています 。
わずか1kg体重が増えるだけで、膝への負担は2〜3kg増幅されるため、食生活の見直しによる減量は非常に効果的な治療となります 。
② 大腿四頭筋(太もも前の筋肉)の強化
膝関節の安定性を保つ「天然のサポーター」として機能するのが、太もも前の筋肉です 。
初期からこの筋肉を鍛えることで、軟骨にかかる衝撃を吸収し、痛みの軽減と進行予防に繋がります 。
③ 膝への衝撃を減らす靴・インソール選び
-
靴の選び方: 底が適度に厚くクッション性があり、かかとの芯がしっかりした靴を選びましょう 。すり減った靴底やヒールは膝の内側への負担を増大させます 。
-
インソール: O脚傾向の方は、外側を少し高くした「ラテラルウェッジ(側方楔状足底板)」を使用することで、膝の内側にかかる荷重を外側へ分散させることができます 。
6. 自宅でできる簡単トレーニング(運動療法)
痛みが強いときは無理をせず安静にすることが重要ですが、初期段階では「適度な運動」が回復を早めます 。
以下のトレーニングは、膝に負担をかけずに筋力を維持できるため、初期の方におすすめです。
1. パテラセッティング(クアドセッツ)

椅子に座るか、床に脚を投げ出して座り、膝をまっすぐ伸ばします。膝の裏でタオルなどを床に押し付けるように太ももに力を入れ、5〜10秒キープします。
これを20回程度繰り返します。関節を動かさない運動(等尺性収縮)のため、初期の痛みがある時期でも安全に行えます。
2. 脚上げ運動(SLRトレーニング)

仰向けに寝て、片方の膝を伸ばしたまま30〜45度ほど持ち上げます。
そのまま10秒キープし、ゆっくり降ろします。これも太ももの筋肉をピンポイントで鍛えるのに有効です。
3. 関節に優しい有酸素運動
「歩かないと筋肉が落ちる」と痛みを我慢して長距離を歩くのは逆効果です 。
膝への衝撃が少ない「水中ウォーキング」や「自転車エルゴメーター(エアロバイク)」などが、初期の運動としては理想的です 。
7. まとめ:初期の「無理をしない勇気」と「早めの相談」
変形性膝関節症の初期は、痛みと上手く付き合えてしまう時期だからこそ、注意が必要です。「膝を守る一番の近道は、無理をしない勇気を持つこと」です 。
初期段階であれば、筋力トレーニングや生活習慣の改善により、1〜3ヶ月程度で症状の改善を実感できることが多いとされています 。
もしセルフチェックで不安を感じたり、動き始めの痛みが頻繁に起こるようになったりした場合は、早めに整形外科を受診しましょう。
レントゲンやMRIによる正確な診断を受け、自分の膝の状態に合ったリハビリ指導を受けることが、一生自分の足で歩き続けるための最良の投資となります。
関連ページ:変形性膝関節症の炎症期について
コメント