1. 医学的に見た「中期」の定義:KL分類グレード3の状態
変形性膝関節症の進行度は、レントゲン画像に基づいた「Kellgren-Lawrence(KL)分類」という世界的な基準で評価されます。
この分類において「中期」とされるのは、主にグレード3(中等度)の状態です。
グレード3(中期)の特徴
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関節裂隙の狭小化: 大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の間の隙間が、正常な状態の半分以下にまで狭まっています。
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骨棘(こっきょく)の形成: 軟骨の摩耗を補おうとして、骨の端にトゲのような突起がはっきりと確認できるようになります。
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軟骨下骨の硬化: 軟骨が薄くなり、骨同士にかかる圧力が直接伝わるようになるため、骨の密度が高まり、レントゲン上で白く濃く映るようになります。
この段階になると、膝のクッション機能が著しく低下しており、日常生活のあらゆる動作で「痛み」や「不自由」を実感するようになります。
2. 中期に現れる代表的な5つの症状
中期に差し掛かると、初期の頃のように「休めば治る」ということが少なくなります。具体的な症状の特徴は以下の通りです。
① 痛みが持続し、生活に支障が出る
初期は「動き始め」だけが痛むのが特徴でしたが、中期では歩いている最中や、動作を止めた後も痛みが長く続くようになります。
歩ける距離が徐々に短くなり、外出が億劫に感じられることも増えてきます。
② 階段の昇降、正座、深くしゃがむ動作が困難になる
膝を深く曲げる動作において、関節内の圧力が上昇し、強い痛みを伴うようになります。
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階段: はじめは「下り」だけが痛んでいたのが、次第に「上り」でも痛みを感じるようになります。
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正座: 軟骨の消失と関節の変形により、膝を最後まで曲げきることが困難になります。
③ 膝の腫れ(水がたまる)と熱感
関節内の炎症が進むことで、滑膜から「関節液」が過剰に分泌されます。これがいわゆる「膝に水がたまった状態」です。
膝が重だるく感じたり、お皿の周りがぷっくりと腫れたり、触ると熱を持っていることが多くなります。
④ 関節のきしみ音(摩擦音)
膝を曲げ伸ばしした際に、「ガリガリ」「ミシミシ」といった音がすることがあります。
これは、剥がれ落ちた軟骨の破片が関節の隙間に挟まったり、露出した骨同士が直接こすれ合ったりすることで発生します。
⑤ ひざくずれとO脚の進行
歩行中や階段で、突然膝に力が入らなくなる「ひざくずれ」が起きることがあります。また、膝の内側の軟骨が重点的にすり減ることで、見た目にも膝が外側に開く「O脚(内反変形)」が目立つようになります。
3. 中期における治療の戦略:保存療法から再生医療まで
中期の治療目標は、痛みをコントロールしながら「病気の進行をいかに遅らせるか」にあります。
保存療法の継続と見直し
従来のヒアルロン酸注射や内服薬、リハビリテーションを継続しますが、これらだけで効果が不十分な場合、治療方針の再検討が必要になります。
注目される「再生医療」
近年、中期の方を対象に、手術と従来の保存療法をつなぐ「中間的な位置付け」として再生医療が注目されています。
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PRP(多血小板血漿)療法: 自身の血液から抽出した成長因子を注入し、関節内の炎症を強力に抑制します。
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APS(自己タンパク質溶液)療法: 「次世代PRP」とも呼ばれ、炎症を引き起こす物質($NF-\kappa B$シグナル伝達経路など)を阻害する抗炎症成分を濃縮して注入します。
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1回の投与で約1年程度の効果持続が期待できるとされています。
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費用面: 再生医療は自由診療であり、PRPは数万〜20万円、APSやPRP-FDは30万〜40万円程度が相場となっています。
外科的手術の検討
痛みが強く、日常生活に深刻な支障がある場合は、手術も選択肢に入ります。
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膝周囲骨切り術(HTO): 自分の関節を残しながら、骨を切ってアライメント(脚の形)を整え、荷重を外側へ逃がす手術です。活動性の高い方に向いています 。
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人工膝関節置換術: 痛みの原因となっている部分を金属やポリエチレンに置き換えます。部分的に置き換える単顆置換術(UKA)と、全体を置き換える全置換術(TKA)があります。
4. 中期を悪化させないための日常生活と運動
中期の方は、膝を「使いすぎず、かつ休ませすぎない」という絶妙なバランスが求められます 。
避けるべき「NG行動」
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衝撃の強い運動: ランニング、ジャンプ、急な方向転換を伴うスポーツ(テニスやサッカーなど)は、すでに弱っている軟骨に深刻なダメージを与えます。
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深い屈曲: 正座や和式トイレ、深いスクワットなどは関節内の圧力を高め、炎症を再燃させます。
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痛みを我慢した歩行: 「歩かないと筋肉が落ちる」と痛みを我慢して歩き続けると、炎症が慢性化し、逆効果になります 。
推奨される運動メニュー
関節への負担が少ない運動を、1日20〜30分を目安に行いましょう。
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水中ウォーキング: 浮力により膝への負荷を大幅に軽減しながら、筋力を維持できます。
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大腿四頭筋(もも前)の強化: 椅子に座って片足をまっすぐ伸ばし、5〜10秒キープする運動が効果的です。
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サイクリング: サドルを高く設定し、膝が深く曲がりすぎないように注意して行います。
靴とインソールの工夫
膝の内側にかかる負担を減らすため、以下のポイントで靴を選びましょう。
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インソール: O脚傾向の方は、靴の「外側」を高くした「ラテラルウェッジ(側方楔状足底板)」を使用すると、内側の荷重が分散されます。
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靴の構造: かかとの芯がしっかりしており、底に適度な厚みとクッション性があるもの、甲が紐やベルトで固定できるものを選んでください。
5. 専門医への相談のタイミング
中期の方は、レントゲン上の変化よりも「自分がいかに困っているか」が治療選択の大きな基準になります。
「最近、階段がつらくなってきた」「膝に水がたまりやすくなった」と感じたら、それは中期への進行を示唆する重要なサインです。
放置して末期に至ると、選べる治療の選択肢(自分の関節を残す治療など)が限られてしまいます。
違和感や痛みの波を繰り返している段階で、一度MRIなどの詳細な検査を含めた整形外科専門医の診断を受けることを強くお勧めします。
適切なケアと最新の治療を組み合わせることで、10年後、20年後も自分の足で歩き続けることは十分に可能です。
膝の声を聴き、無理のない範囲で一歩ずつ対策を進めていきましょう。
関連ページ:変形性膝関節症の炎症期について
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