1. はじめに:変形性膝関節症の連続的な病態
変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis: KOA)は、単なる加齢による「摩耗」ではなく、関節全体の組織が関与する慢性的な炎症性疾患として捉え直されています。
近年の知見では、レントゲンで変化が現れる前の「Pre-OA(前変形性膝関節症)」という段階が定義されており、この超早期からの介入が、進行を食い止めるための「クリティカル・ウィンドウ(重要な期間)」であると考えられています。
2. 初期段階:Pre-OAと「可逆的」回復の可能性
初期症状は、朝の膝のこわばりや「動き始め」の一時的な痛み(初動時痛)が特徴です。
最新研究:軟骨変性は元に戻るのか?
2024年に発表された北海道大学と名古屋大学の研究では、軟骨変性の初期段階において、糖鎖(コアフコシル化)の変化が「ブレーキ」の役割を果たし、軟骨が可逆的に回復(正常に戻る)する機序が存在することが証明されました。
これは、OAが一度始まったら進行するだけの一方向性の病態ではなく、初期であれば自然修復が可能であることを意味しています。
初期に行うべき介入
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大腿四頭筋の強化: 膝関節を安定させる「パテラセッティング」などの低負荷トレーニングが推奨されます。

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体重管理: BMIが5増加するとOAリスクは1.2倍以上に高まります。1kgの減量が膝への負担を数kg軽減します。
3. 炎症期(急性増悪期):滑膜炎と痛みのメカニズム
強い腫れや熱感、安静時痛を伴う「炎症期」は、滑膜に炎症が起き、関節液が過剰に分泌される(水がたまる)状態です。
痛みの原因としての「滑膜炎」
初期から中期にかけての痛みは、軟骨自体の損傷よりも、滑膜の炎症(Synovitis)が主因であることが最新の研究で示唆されています。
炎症性物質であるプロスタグランジンやサイトカインが放出され、痛みを増強させます。
急な痛みへの対処(RICE処置)
炎症の4徴候(熱感、腫れ、赤み、痛み)がある場合は、RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)が基本です 。
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冷却のタイミング: 痛みが出てから2〜3日以内、または熱感がある時に1回15〜20分行います 。
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温熱への切り替え: 熱感や腫れが引き、こわばりが中心となった慢性期(通常3週間以降)には、入浴などで温める「温熱療法」へ切り替えることで血行を促進し、痛みを和らげます 。
4. 中期段階:持続的な痛みと治療方針の見直し
中期(KL分類グレード3相当)では、関節の隙間が正常の半分以下になり、骨棘(骨のトゲ)が顕著になります。
この時期は、保存療法と手術療法のどちらを選択するかの重要な転換点です。
再生医療の役割
ヒアルロン酸注射の効果が不十分な場合、自身の血液を利用した再生医療が選択肢となります。
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PRP(多血小板血漿)療法: 成長因子により炎症を抑え、組織の修復を促します。中期までの症例に特に有効とされています。
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APS(自己タンパク質溶液)療法: 次世代PRPと呼ばれ、抗炎症成分を高濃度に含みます。1回の注入で約1年間の除痛効果が報告されています。
5. 食事療法:膝を守るための抗炎症栄養学

食事による炎症コントロールは、薬物療法を補完する重要な手段です。
積極的に摂取すべき栄養素
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オメガ3脂肪酸: 青魚(サバ、イワシなど)に含まれるEPA・DHAは、炎症性物質の産生を抑え、膝の痛みを軽減する効果が報告されています。
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抗酸化物質: ベリー類(ブルーベリー等)や緑黄色野菜に含まれるビタミンC、E、ポリフェノールは、軟骨を酸化ストレスから守ります。
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ショウガ: ショウガエキスには一般的な鎮痛剤と同様の炎症抑制効果があることが研究で示されています。
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全粒穀物: 玄米や全粒粉パンを摂取する人は、OAの発症リスクが34%低下するという大規模研究の結果があります。
避けるべき食品
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飽和脂肪酸・トランス脂肪酸: 脂身の多い肉や揚げ物、加工食品は体内の炎症を助長するため、摂取を控えることが推奨されます。
6. 日常生活の注意点と「NG行動」
階段昇降の専門的ルール
「上りは良い足から、下りは悪い足から」を合言葉にします 。
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上り: 良い足(痛くない方)で体重を引き上げる 。
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下り: 悪い足(痛い方)から先に下ろし、上の段に残った良い足で衝撃を支える 。
避けるべき動作(NG行動)
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痛みを我慢した運動: 痛みは炎症のサインです。無理をすると軟骨の劣化を早めます 。
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深い屈曲: 正座、和式トイレ、深いスクワットは関節内圧を高め、炎症を再燃させます。
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合わない靴: かかとがしっかりしており、クッション性の高い靴を選びます。O脚傾向の方は「外側」を高くしたラテラルウェッジ・インソールが有効です。
7. まとめ
変形性膝関節症の管理において、初期の可逆的な段階を逃さないこと、そして炎症期には適切に負荷を遮断することが重要です。
最新の知見では、適切な運動療法と併せて、オメガ3脂肪酸や全粒穀物を中心とした「抗炎症ダイエット」を取り入れることで、進行抑制の可能性がさらに高まることが示されています。
違和感を感じたら「まだ大丈夫」と思わず、早めに専門医へ相談することが、一生歩き続けるための鍵となります。
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